
ホスピタリティとは何かを明らかにする前に、前提となる「CS(お客様が満足する)」に対するおさらいをしたいと思います。
接客業に求められる人材は、いつの時代も変わりません。
「お客様を満足させることができる人」です。
もしあなたが観光に関する産業でお勤めであれば「観光客を満足させることができる人」です。
ではCSとは、どういう状態をいうのでしょうか?
答えは「お客様の事前の期待に対して、その期待を上回る価値を提供した状態」です。
お客様は利用しようとしているお店に対して、必ず事前に何らかの期待を持っています。
「あの店は、コーディネートの相談に乗ってくれる」「あの宿に行けば、美味しい料理が食べられる」「品揃えが揃っている」「スピーディーな応対」いろいろあると思います。
それに対して実際に買い物や利用をしてみると、期待との「差」が生まれます。
「思っていた以上に親切な対応だった」「噂に違わぬ料理の美味しさだった」など、実際に受けた価値が、事前期待を上回れば「満足」します。
逆に「品切れが多くて、それほどの品揃えではなかった」「噂ほどの接遇ではなく、応対が雑だった」など期待を下回ると不満足の状態になるのです。
さらに期待に対して激しく下回り、大幅なギャップが生まれるとクレームが発生します。クレーム発生の要因も、ほとんどの場合が事前期待との差なのです。
さらに顧客満足を難しくする要因があります。
ポイントは2点あります。
一点目は、「事前の期待を少しでも上回らなくてはならない」という点です。事前の期待と全くイコールの価値を提供してもお客様は「当たり前」「普通」という感想しか持ちません。満足の状態にならないのです。
二点目は、「お客様が一度体験した満足は、次回来店時には事前期待へと変化」します。そのため事前期待は常に上昇し続けるのです。お客様が次来店された時は、前回よりさらに上回る価値を提供しなくてはいけません。
顧客満足に終わりはないのです。
そのためCSを追求する企業は、日々事前の期待を上回るよう、商品やサービスの改善活動をしています。
例えばセブンイレブン。ツナおにぎりの味が毎年変わっているのをご存じでしょうか?
あの大ヒットした100円コーヒーも翌年に豆を変え、ローストまで変えているのです。
おでんも毎年出汁を変え、卵の濃厚さを出すため、鶏の餌まで変えています。
経営幹部は毎日セブン-イレブンのお弁当を食べて、改善状況をチェックしています。
簡単にCSと言いますが、全てが充足され過ぎの現代社会。並大抵のことでお客様を満足させることはできないのです。
また事前期待には特徴があります。
「一人一人事前に期待していることは違う」、だから「サービスの受け取り方も一人一人ちがう」ということです。
百貨店に勤務していた時こんなことがありました。
親切な対応で評判の高い女性の販売スタッフが居たのですが、ある日クレームが入ったのです。
お客様の主張は「ゆっくり商品を見たかったのに、しつこく接客された」というもの。
真面目な彼女は、当時マネジャーをしていた私のところへ来て、どうしたら良いか相談しに来ました。
私は「それではお客様にお声をかけるタイミングを、少し遅らせてみてはどうでしょう」とアドバイスしました。そしてそのスタッフは、そのアドバイスどおり接客をすることにしたのです。
しかしまたクレームが発生しました。
今度のクレームの内容は、「無視された」というものでした。「買う気満々で見てたのに、中々声を掛けてくれなかった」というのです。
このようにお客様一人一人で期待していることは違います。そのため、同じ対応をしても受け取り方次第で、喜んでいただけるお客様がいれば、クレームにまで発展してしまうお客様もいらっしゃるということです。
このように一筋縄ではいかない「CS」ですが、事前期待を上回るためにはどうしたら良いでしょう?
そのためには「CS2つの価値」を知ることです。
その2つとは「機能的価値」と「情緒的価値」です。
機能的とは言葉の通り、性能や特性、効率や速さなど商品や対応の機能によって顧客が得られる価値です。
情緒的とは、商品や対応で人の心や気持ちを充足させる価値です。
しかしこの2つの要素、ほとんどの場合どちらか一方だけではCSを満たすことができません。
例えばホテルや百貨店を利用した時、テキパキとスピーディーに対応できても、真顔で感情のない声だと、お客様はガッカリします。逆ににこやかで丁寧な接客をしても、会計やチェックインに10分15分と掛かるようであれば、お客様はイライラすることでしょう。
2つの価値をどちらも満たすことが必要なのです。2つの価値を同時に満たすのが次の章以降でお伝えする、「ホスピタリティ」と「サービス」という概念なのです。


